猜疑が争いを焚きつけ、争いは火の手を生み、命は瞬く間に燃え尽きていく。 全ての命が燃え、その残骸だけが虚しくも激しい炎を上げる、嘗ての大路。 呆然と立ちつく少女の姿が一つ。彼女は人ではない。 そこに、彼女と同じく人ならざるものの影があった。 四肢の一部を失った黒の獣が、這うように少女に迫る。 「貴様ガ、ミマヤニ力(ちから)ヲ与エタ精霊カ」 獣の問いかけに、少女は答えない。 暫しの間を置き、獣が続ける。 「一ツダケ聞キタイコトガアル」 少女は黙したまま、俯く。 「…ミマヤガ我ニ止メヲ刺サントセシトキ、直前マデ感ジテイタ剣カラ発セラレル、  貴様ト同種ノ力ガ突然失ワレタ。  其ノヨウナ事ガ無ケレバ、我ハミマヤに殺サレテイタダロウ。  何故、貴様ハ我ニミマヤヲ殺サセタ。」 少女は顔を上げた。そこに表情は見えない。 しかし発せられた声は、微かな震えを含んでいた。 「あの娘が…ミマヤだけが人になるのが、許せなかった。」 精霊にとってミマヤの存在は何者だったのか。 二人が共に過ごした数年の間、 アカリは国の歴史を語り、ミマヤは喪った記憶を紡ぎ、僅かに残る思い出を語っていたという。 精霊と人の、祝詞を介さぬ交わりの例は存在せず、その間柄を説明する言葉は無いが、 それがもし人と人の間柄であったなら、何と呼ぶものであっただろうか。 ともあれ、語りたがりは常に人間のみ。妖魔の語り部など聞いたことも無いだろう。 死人には語るべき口が無く、精霊は黙して何も語らず。 人の地平に立つ者は、物語の断片を集め、空想するしかできない。